2006年10月07日

●Four Brothers / Manhattan Transfer

ウッディ・ハーマンは余り腕の良くないクラリネット奏者でしたが、彼が戦前に結成したバンドはそこそこ当たり、彼はバンド・リーダー兼ボードヴィリアンとして有名になりました。戦時中、メンバーの応集等でバンドは解散せざるを得ませんでしたが戦後、東海岸からハリウッドを目指してLAへ移住した若いミュージシャンを集め「セカンド・ハード」と呼ばれるバンドを再結成しました。通常のバンド編成は上の段がトランペット、中段がトロンボーン、下の段が左からアルト・サックス2本、テナー・サックス2本とバリトンサックスですが、セカンド・ハードは下段をテナー・サックス3本(ズート・シムズ、スタン・ゲッツ、ハービー・スチュワード)とバリトン・サックス(サージ・チャロフ)という4管編成にしたため「フォー・ブラザーズ」と呼ばれました。この曲はジミー・ジェフリーが作曲し、フォー・ブラザーズをそのまま曲名にしています。発表当時はそれまで無かった非常にクールなテナーのハーモニーが受け、セカンド・ハードの大ヒットとなりました。今、聞いてもその清新な響きは色褪せていません。

一方、マンハッタントランスファーは例によってジョン・ヘンドリックの歌詞でセカンド・ハードのソロを忠実にヴォーカリーズしています。

アルバムタイトル:SP時代の録音ですので、特にオリジナルアルバムタイトルはありません。
曲名:フォー・ブラザーズ
録音:1947
ソロ順:ズート・シムズ(ts)→サージ・チャロフ(bs)→ハービー・ストュアート(ts)→スタン・ゲッツ(ts)



アルバムタイトル:パスティッチ (Pastiche)
曲名:フォー・ブラザーズ
録音:1978
ソロ順:ジャニス・シーゲル→ティム・ハウザー→アラン・ポール→シェリル・ベンティン
マンハッタン・トランスファーの録音には原曲に無かったイントロが付いていますが、それ以外は複雑な歌詞を余裕を持って歌っています。脱帽もののテクニックであります。バックも豪華で、かつてウッディ・ハーマンのバンドに在籍したジミー・ジェフリー、りー・コニッツ、アル・コーンに加え、ランディ・ブレッカーもテナーサックスで参加しています。

2006年09月18日

●Sing Joy Spring / Manhattan Transfer

今回はデビュー当時からヴォーカリーズに取り組んできたマンハッタン・トランスファーのアルバムでその名も「ヴォーカリーズ」の「ジョイ・スプリング」です。オリジナルは夭折の天才トランペッター"クリフォード・ブラウン"とドラマーの"マックス・ローチ"の双頭バンドが1954年に吹き込んだ「クリフォード・ブラウン アンド マックスローチ」というアルバムの1曲です。クリフォード・ブラウンは1930年生まれで10代の頃からその天才を発揮し、このアルバムを吹き込んだ頃には既に押しも押されもせぬ大スターになっていましたが、1956年25歳の若さで同僚の”リッチー・パウエル”と共にリッチーの妻が運転する車の事故で亡くなってしまいました。彼の死はジャズ界に衝撃を与え、後に「アイ・リメンバー・クリフォード」という美しいバラードが作曲され、今でも歌い継がれています。「ジョイ・スプリング」はその名の通り、春の喜びを歌っており、クリフォード・ブラウンの明朗快活で無理の無い美しいフレージングは何度聞いても気持ち良く聞けます。

アルバムタイトル:クリフォード・ブラウン アンド マックス・ローチ
曲名:ジョイ・スプリング
録音:1954.8.6(LA)
ソロ順:ハロルド・ランド(ts)→クリフォード・ブラウン(tp)→リッチー・パウエル(p)
ハロルド・ランドとクリフォード・ブラウンの2管のアンサンブルによるテーマからまずハロルド・ランドのソロに入ります。次にクリフォード・ブラウンのソロになり、次第に急速調になりながらも、破綻無く美しいメロディを紡いでいます。もう一人のリーダであるドラムスのマックス・ローチは全体的に控えめで後半のフォーバース・チェンジ(4小節ずつタイコと管楽器が交代で演奏する)とそれに続くブラシでのソロのみです。リーダがドラマーのバンドは兎角ドラムソロが増え、五月蝿くなりがちですが、マックス・ローチは旨くバランスを取っています。尚、このテイクの最後にはアシスタントディレクターの声が入ってます。

アルバムタイトル:ヴォーカリーズ 曲名:シング・ジョイ・スプリング 録音:1985 ソロ順:ティム・ハウザー(ts)→ジャニス・シーゲル(tp)→ウォルター・ディビス・ジュニア(p)→ディジー・ガレスピー(tp) まず、ティム・ハウザーがハロルド・ランドのソロを歌い、次にジャニス・シーゲルがクリフォードブラウンのソロを歌っています。元々のソロの出来が良いとはいへ、これだけ歌いこなしてまうジャニスには脱帽です。次にウォルター・ディビス・ジュニアのピアノ、そしてゲストとして御大ディジー・ガレスピーが余りでしゃばらず、ユーモラスなソロを披露しています。最後にフォーバース・チェンジを唄ってテーマに戻ります。

2006年08月15日

●Tickle Toe / Joe Williams, L, H, & R with Count Basie

新しいカテゴリ「ヴォーカリーズ」を追加しました。「ヴォーカリーズ」とはボーカル化するという意味で言い換えると「器楽曲に歌詞をつけて歌う」という事になります。しかし、ジャズの世界では「アドリブに歌詞を付けて歌う」事をヴォーカリーズと呼んでいます。御存じの通りジャズはジャズメンが命を懸けて演奏するアドリブ(即興演奏)が命ですが、アドリブというのは即興的に作曲しながら演奏しているとも言えます。確かに名ジャズメンのアドリブは素晴らしいフレーズが多く、ジャズ喫茶のコーヒー一杯で粘りながら、アドリブを憶えた人も沢山いる筈です。処が、そのアドリブを愛するが故に歌詞を付けて歌ってしまおうという人が出てきました。勿論これが出来るのは電気吹込みによるレコードが自由に手に入るようになってからで、その始まりは戦後です。レコードを何回も聴いて採譜し、題名にあてはまる歌詞を付けます。処がアドリブは様々な楽器で演奏されますが当然歌う事は想定していません。よって早いフレーズが多く、音程も急激に変化し並の歌手ではとても歌えません。それを驚異的なテクニックで歌ってしまう人々が出てきたのですから大変な反響を呼びました。

このカテゴリ第1回はテナーサックスの”レスター・ヤング”が素晴らしいアドリブソロを聴かせてくれるカウントベイシー楽団の”Tickle Toe”です。レスター・ヤングはこのレコードが録音された1930年代後半から兵隊に行くまでが絶頂期で以後のサックス奏者のみならず、多くのジャズメンに影響を与えました。モダンジャズのルーツはレスターヤングと言ってもいいでしょう。

この曲をヴォーカリーズしたのはデイブ・ランバート、ジョン・ヘンドリックスとアニー・ロスの三人です。彼らは当時の最先端技術である多重録音を駆使し、ソロのみならずバンドのアンサンブルまでヴォーカリーズしたアルバム”Sing A Song Of Basie"を作り、大変な反響を呼びました。これを聞いたカウント・ベイシーはいたく感激し、彼らとの共演が実現しました。ボーカルには当時カウント・ベイシー楽団の専属だったジョー・ウィリアムスも参加しています。バックが本物のカウントベイシー楽団ですので是非、オリジナルとヴォーカリーズを聞き比べてみてください。彼らの驚異的なテクニックとカウント・ベイシー楽団のホットなアンサンブルが相俟って歴史に残る名アルバムとなりました。これも元はと言えば原曲の素晴らしさがあり、それが好きで好きでしょうがないという気持ちがこれだけのものを作らせたのでしょう。
アルバムタイトル:レスター・ヤングメモリアルアルバム
曲名:ティックル・トー(むず痒いつま先)
録音:1940.3.19(NY)
ソロ順:バディ・テイト(ts)→ハリー・エジソン(tp)→レスター・ヤング(ts)→カウント・ベイシー(p)

カウントベイシー楽団の弾むようなワクワクするようなアンサンブルから始まり、ハリー・エジソンのトランペットソロに続いてお目当てのレスター・ヤングのソロが始まります。スムーズでアイデアに富みある時ははっとするような素晴らしいソロです。ボリュームを上げて聞いて下さい。当時のレコードは78回転のSP盤で3分しか入りませんでした。逆にその3分に賭けた彼らの青春の瑞々しさが伝わって来るようです。

アルバムタイトル:シングアロングウィズベイシー
曲名:ティックル・トー(むず痒いつま先)
録音:1958
ソロ順:ジョン・ヘンドリックス(ts)→アニー・ロス(tp)→ジョン・ヘンドリックス(ts)→カウント・ベイシー(p)
このアルバムに参加したデイブ・ランバート、ジョン・ヘンドリックスとアニー・ロスの3人はこのアルバムの成功に気をよくし、三人でランバート・ヘンドリックス&ロス(LH & R)というグループを結成し大活躍しておりましたが、アニー・ロスが一時体調を崩しヨランダ・ベバンと交代しました。彼女は今でも元気に歌っておられます。

このカテゴリーは少々オタク入ってますが、こんな事やる人は他には居ないので、初めての方も、これを機会にヴォーカリーズの楽しさを体感してください。手元にネタが少ないので、蒐集しながら非定期にアップしていく予定です。